土佐紙布ができるまで

土佐紙布ができるまで
着物と土佐和紙をつなげる

なりわいである呉服の世界。一方、和紙の世界とクロスさせた「いいもの」が作れないかと、ずっと思ってきました。私たちの店は高知市にありますが、暮らしているのは千年の和紙産地・いの町です。仁淀川流域には土佐和紙の手漉き工房や機械抄き和紙の工場があります。また、原料や道具の産地でもあります。当初は、呉服屋として、お客さまが処分されるお着物や製造時に出るくず糸の絹を、紙として再生する方法を探していたんです。
地元の県立紙産業技術センターさんへ通い、5年近くあれこれと相談し、試作もしていただきました。わかったのは、絹を紙に漉き込む状態に裁断するには大きな設備が必要だということ。絹の和紙はすでにあるし、用途も限られているようでした。

風合いのある紙布との出合い

そんな頃、いの町の街角にある紙問屋を再生した喫茶店で、ふと出合った昔の紙布から、イメージが湧いてきたのです。紙布という織物があることは、呉服の仕事で知っていました。実際に見た紙布は、自然素材と手仕事の風合いが感じられて、ここから、紙から糸を紡ぎ、帯をつくろうという方向が定まりました。今度は作家さん探しです。高知では、紙を糸によって、織ってくださる作家さんが見つかりませんでした。問屋さんに相談したところ、ちょうど手元に福井県の越前和紙産地に住んでいる工芸作家の竹内康子さんが織った和紙の帯を持っていらして。作品を見て、自然な作風に惹かれました。竹内さんに使っている紙の見本を送っていただき、似た質感や厚さの紙を県立紙産業技術センターさんに探していただき、ひだか和紙さんの機械漉き典具帖紙に行き着きました。これで、紙と人がそろったのです。土佐と越前、遠い二つの紙産地が、一本の紙布帯でつながるという、得がたいご縁。竹内さんには希望する色合いだけをお伝えして、あとは作家の感性にゆだね、仕上がりを待ちました。

2019年春完成、土佐紙布と名付けて

出来上がったのは女性用の名古屋帯、男性用の角帯。5年かけて実現しました。経糸は木綿、緯糸が土佐和紙の、「土佐紙布」です。手紡ぎと手織りの表情に癒やされ、手ざわりも締め心地も軽く、ナチュラル。私が福井へ作家を訪ねた時、タクシーの運転手さんも料理店の方も、越前和紙のすばらしさをしっかり語り聞かせてくださったのが印象的でした。高知でも、多くの人が土佐和紙の魅力を語れるようになればいいなあと思います。これから、土佐紙布の付加価値を生かして布小物などにも展開していきたいと考えています。